○井上(一)委員
国民民主党・無所属クラブの井上一徳です。
今日は、末澤参考人、水野参考人、山田参考人、本当にお忙しい中、貴重な御意見を賜りました。本当にありがとうございました。
私、地元は京都北部なのです。今、報道では日経平均3万円という明るいニュースが報道されていますが、地元を回っていると本当に状況は深刻で、ますます深刻度を増しているような状況です。そういう状況の中で、私は企業と雇用をしっかり守っていく、そして国民の生活、健康を守っていくためには積極的な財政は今は絶対していかなければならないという立場です。しかしながら、このままずっといけるわけではありませんので、経済を立て直していかないといけないという観点からまず基本的なところで質問をさせていただきたいと思います。
これは、吉良州司先生という衆議院の先生がまとめられた資料です。その中で面白い数字がありまして、日本円ではなくドルベースで比較した数字です。過去25年間の名目GDPを見ると、米国が2.8倍、英国、イギリスが2.1倍、カナダが2.9倍、豪州は3.8倍、フランスとイタリアが1.7倍、ドイツ1.5倍といずれも増加しているのですが、日本だけが0.93倍ということで減少しています。
そして、どうしてこんなに日本だけが伸びていないのかといえば、日本の個人消費の低迷が続いているからです。それによって日本のGDPだけが上がっていない、むしろ下がっています。
では、この個人消費がなぜ低迷しているのかということで、主要先進国の実質賃金を比較しています。
これで見ると、1991年を100とすると、イギリスが148.3、約1.5倍になっています。ドイツ、フランス、カナダが1.3倍です。他方で、日本は104.7ですからほぼ横ばいです。実質賃金が伸びていないわけです。それゆえに個人消費も伸びていません。
私は、アフターコロナで、経済をどうやって立て直していくかということを考えていくときに、個人消費をどうやって増やしていくか、そのためには賃金をどうやって増やしていくかが大事ではないかと思っています。
それで、まず先生方にお尋ねしたいのですが、日本だけがなぜ賃金が上がらないと思われているでしょうか。
○末澤参考人
一つは、私はちょっと、今95年との比較をされたと思うんですが、実は日本にとって95年というのはもうピークなんですね、いろいろな面で。ちょうど生産年齢人口のピークが1995年でございます。
為替も、実質実効為替レート、先ほどちょっと資料で、15ページの左下なんですが、この実効為替レートというのは、物価の上昇、下落を調整したものでございまして、実質が本当の意味ですね。そういう面で見ると、実はこの赤い折れ線、ちょうどこれは1995年が、いわゆる円が本当に相対的に世界中で最も強かった。そこからはもうどんどん下落傾向にあるんです。
そういう面では、ある面、やはりバブル期、ちょうど生産年齢人口がピークで、つまり生産年齢人口が多いということは、これは車も住宅もみんな買うわけです。しかもそこはちょうどバブルと相まって、私の記憶ですと、たしかあの頃は、東京23区でアメリカが買えて、山手線の内側でカナダを買えるぐらいの地価の時価総額があって、NTT1社がたしかニューヨーク証券取引所全体と一緒ぐらいに一部なったことがあるという、本当にジャパン・アズ・ナンバーワンなんて、バブのピークなんです。だからそこで比較すると当然落ちる分が一つあります。
しかもその後、人口が2008年から10年にピークアウトして、これは総人口ですね、やはり、ドイツ等ですと、マルクだったのがユーロに変わり、しかも移民の流入である面労働力不足を補ってきたという、つまりある面で通貨同盟の中に入っていたわけですが、日本はずっと単独でやってきて、その分やはり国際競争力は落ちて、だんだんと企業のいわゆる海外進出、いわゆる空洞化が進んだんだろう。
ちょっと、これはもう時間の関係で御説明できなかったんですが、鉱工業生産と実質輸出の関係というグラフが私のこの資料の12ページの左上にあるんですけれども、これをざっくり申し上げると、12ページの左上のグラフを御覧いただくと、赤い折れ線というのが鉱工業生産、つまり車とか製鉄、鉄鋼の生産指数ですね。
この生産というのは、もう本当に80年代後半にピークを打ってほとんど変わっていないんです。むしろ最近減っている。一方で、この青い輸出の方は、今コロナ禍でも過去最高水準に来ているということで、つまり、やはりグローバル化と少子高齢化への対応を怠ったということと、あとやはり賃金、おっしゃるとおり賃金の、つまりグローバル化と少子高齢化対応を怠ったことで企業も国内で余り投資しない。企業が、むしろ賃金も上げることにどちらかというと消極的だという問題があったんだろうと思います。
以上でございます。
○水野参考人
賃金がなぜ上がらないかですが、それについては、企業のアレルギーといいましょうか、それがあるからと思っております。
これはもう今から50年前に遡りますけれども、第1次石油ショックが起きて、それまでは前年の物価にスライドさせて賃金を上げていた、しかし、第1次石油ショックの前が狂乱物価のときで、その狂乱物価の上昇分を第1次石油ショック後に賃上げで上乗せした。それによって、日本にはスタグフレーションという現象が起きてしまった。
つまり、第1次石油ショックで不況であるにもかかわらず賃上げをしたために、商品やサービスにその分を上乗せしたコストプッシュインフレーションですか、それが生じて、不況なのに物価が上昇するというスタグフレーションが起きてしまった。そして、それから脱出するのにまた日本の経済は苦労した。
ということで、賃上げをする、基礎賃金を上げるというのは、非常に企業にとってアレルギーを持つことになってしまって、バブル期も基礎賃金が上がったわけではなくて、残業等が増えて、そして労働者にお金が入った、そういうような構造で、日本の賃上げというのは、今でも企業はアレルギーを持っているように思います。
○山田参考人
現在の日本は、基本的には、個人消費の低迷が経済的な不況の非常に大きな柱だということは御説のとおりだと思います。
じゃ、なぜ賃金がと申しますと、マクロベースでいきますと、これは、非正社員の割合が非常に増えてきたということが一番大きいです。
日本の経営の3種の神器というのは、終身雇用と年功序列と企業別組合ですけれども、特にこの中の終身雇用を壊した。ここのところは非常に大きいですよね。
アメリカ型の雇用といいますか働き方改革といいますか、それが入ってきて、かつての日本経団連とかの比較的高齢の方は、絶対それはやっちゃいかぬということで、若手のアメリカ帰りの経営者と物すごいバトルがあったんですよ。残念ながら、お年寄りの良識派は負けちゃった。なぜか。それはやはり、アメリカがバックについていたから、若い方に。なぜアメリカはバックにいたかというと、それは、その当時は、日本の貿易の最大相手国はアメリカだったからなんですね。
そういう点では、今現在、非正規化の雇用は4割ぐらいまでいっていますよね。正規雇用者が一生涯働いて稼ぎ出す生涯所得は1億2、3千万ぐらいです、ざっくり。ところが、非正規でいったら5、6千万円なわけです。
2つ合わせるというと、全般的には、結局、雇用を非正規にスイッチすることによって、マクロ的には賃金水準をぐっと落としちゃったんですね。ところが、賃金というのは消費需要の根っこです。ですから、消費需要は壊れます。でも、ミクロでいきますと、個々の会社の社長さんは、人件費をカットして、正社員から非正社員に替えれば、人件費が減りますからその分もうかります。
ところが、その社長さんは、もっとマクロ的な発想が必要なわけです。自分はもうかって、だけれども、あそこもリストラをやり、ここもリストをやり、全体として賃金水準がダウンしたために消費需要は一挙に冷え込んで、結局、自分のところの製品が売れなくなったというふうに嘆くわけです。
今の社長さんに求められているのは、そういうミクロの経営だけでなくて、もっとマクロ的な、もっと言えばグローバルな経営感覚が求められているわけです。そういう点では、消費需要の低迷、賃金の低迷はまさにそこにあるんだというところは、とてもやはり外せない問題だと思います。
○井上(一)委員
どうもありがとうございました。
私も、地元を回っていると、経営者の方は、皆さんのために最低賃金を本当は上げてあげたいと言われています。ただ、最低賃金を上げると経営が成り立たたず、最低賃金を上げた分を価格に転嫁できればいいが、価格に転嫁できず、しわ寄せは全部中小企業に来てしまうということで、私は、悩ましい問題だと思っています。
今日の毎日新聞には、アメリカでは最低賃金を上げるということで、フロリダ州は5年間かけて今8.65ドルを15ドルにするとあります。こういう動きがアメリカで広がっているというです。
私も、こういうことが進められれば、労働者の賃金は上がり、所得も上がり、消費が活発化するということだと思いますが、他方で、特に中小の企業者にとっては、価格に転嫁できないのでやっていけるのかどうかということになっているのだと思います。
賃金が上がらないとなると、本当に生活に困っている人は、どうしていくのか心配になっていきます。個人の家計の貯蓄がすごく増えています。100兆円増えた。やはりこれは将来に対する心配だと思います。将来に対する心配があるので貯蓄に回してしまい、消費に回りません。
そういう中で、ベーシックインカムの議論があります。最低の所得を保障してあげるベーシックインカムによって将来の不安を取り除くことで消費を活性化させるという議論が今出てきていますが、このベーシックインカム論について、3人の先生方はどのように考えておられるか、お聞きして終わりたいと思います。
○末澤参考人
欧州の一部の国で導入の動きがあるのは承知しております。仮に我が国で1人10万円で入れるとすると、100万とすると100兆円ですかね、1億人ですから。
ただ、私は、現時点ではちょっとなかなか困難だと思うんですけれども。ただ、20年後、30年後、先ほど申し上げましたように、本当に少子高齢化が進んで、特に団塊ジュニアの方々が生活に苦しむような状況になってくると、つまり生活保護が膨らむ状況になるのであれば、もうベーシックインカムの方がむしろ、働く気力といいますか自尊心を保持するという面でもプラスの可能性もある。
ただし、ちょっと私は、まだここは研究段階で、現時点での導入は困難だと思いますが、やはり、将来的には一つの検討課題ではあると思います。
○水野参考人
イノベーションが進んで、そして人間がやることがなくなっちゃった、そのときにベーシックインカムが政府から給付される、そうすると、我々国民はどのような意識を持てばいいのか。ただでお金がもらえるんだから国に尽くす必要もないということで、そのイノベーションが進んだ先ですよね、そうしたベーシックインカム論が実現しようかしまいかというときこそ、そこを見据えて、国民が国のために働く、納税する、そういう意識を今から大切にしていかなければならないわけですよね。
お金をただでもらえる、それで国のためとは思わなくなってしまう、その点を今から注意しておくべきじゃないですかというのが私の先ほどの意見です。
○山田参考人
最初に、地元を回って、中小商店なんかは賃上げできないというあれですけれども、そこなんですね。つまり、今は日本の企業間格差が半端じゃないんです。
ですから、もうけ過ぎて利益剰余金が500数十兆円もたまっている、そこに課税するというのは、最低賃金あたりを中小零細商店に保障する財源にもなるんですね。そういう形にすれば、これまで膨らんだ企業間格差というのを少しバランスを取ることができるという点で、そういう税の使い方、これが必要になってきているということです。
ベーシックインカムの問題は、これは、基本的には、国民の生活をお金で解決できる範囲では積極的に意味を持ちます。だけれども、お金で解決できないのもかなり多いわけです。例えば、医療とか介護とか保険だとか、様々な人的なサービスですよね、人肌を感じさせるサービス。これはベーシックインカムから抜けちゃうんです。だから、そこの両方をバランスよく組み合わせるというのが大切だと思います。
以上です。
○井上(一)委員
どうもありがとうございました。